『小倉百人一首』
あらかるた
【バレンタイン特別編】想いを伝える贈り物
平安貴族の贈り物
ある日、清少納言のもとに
満開の梅の枝を添えた贈り物が届きました。
包みをあけてみると、出てきたのは餠餤(へいだん)というお菓子。
平安時代のめずらしいスイーツです。
贈り主は藤原行成(ふじわらのゆきなり)。
行成は清少納言が「夜をこめて」(百人一首62番)の歌を贈った相手で、
とても気の合う友人だったそうです。
おいしいから是非どうぞという気持で
ガールフレンドの清少納言に贈ったのでしょう。
平安時代、貴族はしばしば贈り物をしていました。
季節のご挨拶やお祝いの行事のときだけでなく、
ちょっとした機会にもさまざまなものを贈りあったのです。
大きなものでは馬という例もありますが、
これは特別なことがあったときの、それも男の贈り物。
一般的にはお菓子やくだもの、
高級な紙(当時は高価でした)、布、化粧道具、
人形、物語の本、旅のおみやげなどが贈られていました。
はるか昔の平安時代にも
このようなギフトを贈りあって
お互いのきずなを深めていたのですね。
もちろん贈り物には、必ず和歌を添えるのがマナー。
和歌も大切な贈り物のひとつだったのですから。
この想いを伝えたい
恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
(百人一首41 壬生忠見)
早くもわたしが恋をしているとうわさになってしまったよ
ひそかに思いはじめていたというのに
好きになった人に想いを伝えたい。
そんなとき、平安貴族はどうしたのでしょう。
男の場合は歌を詠んで届けるのが一般的でした。
季節の花の枝などに歌を書いたきれいな紙を結びつけ、
使者に持たせてやって、相手の家の侍女に手渡させるのです。
しかし当時、貴族の女性がみずから恋心を告げるのは
とてもはしたないこととされていました。
偶然にでも出逢う機会があれば、
思わせぶりに振る舞って相手の注意を惹きつけたり、
あるいは侍女や友人に頼んで、
好きな人の周辺に自分のうわさを流してもらったり…。
相手が興味を持ってくれればチャンスが生まれます。
そうしておつきあいが始まると、
和歌が想いを伝えるだいじなツールに。
あすか川淵は瀬になる世なりとも おもひそめてむ人は忘れじ
(古今和歌集 恋 よみ人知らず)
飛鳥川の淵が明日は瀬になるように変わりやすい世の中
人の心も同じようなものかもしれないけれど
好きになったあなたのことは決して忘れませんわ
わたしたちも大切な人への想い、
しっかり伝えていきたいですね。