『小倉百人一首』
あらかるた
【49】位階を気にする平安貴族
区別しにくい身分と役職
百人一首歌人には三人の参議(さんぎ)がいます。
中納言(ちゅうなごん)は権(ごん)中納言も入れると八人。
これらはの呼び名は役職を示したものです。
それに対して院、親王(しんのう)、朝臣(あそん)、
僧正(そうじょう)は身分を表す呼称です。
なじみのない言葉が多くて区別しにくいので、
今回はそれらを整理してみます。
身分のトップはいうまでもなく天皇です。
→天智・持統・光孝
天皇が座を退くと上皇(じょうこう)、さらに出家すると
法皇(ほうおう)と呼びますが、両方まとめて院とも称します。
→陽成・三条・崇徳・後鳥羽・順徳
皇子、皇女はそれぞれ親王、内親王と呼ばれます。
→元良・式子
朝臣は五位以上の姓名につける敬称。
臣下に下った皇子・皇女にも与えられています。
→在原業平・藤原敏行・源宗于・藤原実方・藤原道信・源俊頼・藤原清輔
僧正は僧の最高位を表し、大僧正、正僧正、権僧正の三段階があります。
→遍昭・行尊・慈円
※法師、入道は身分を表しません。
位階が以外にややこしい
藤原家隆のみ従二位(じゅにい)とありますが、
これは位階(いかい)と呼ばれるものです。
表記はされていませんが、
たとえば在原業平の最終官位は従四位上、
源融(河原左大臣)は従一位で、死後正一位を贈られています。
位階は一位から八位までと初位があり、
そのうち一位から三位までは正と従があります。
四位から八位までは正・従に分けた上、さらに上・下に分けられました。
初位は大・小に分けてそれぞれに上・下があったので、
合計すると三十階の階層構造になります。
位階は昇進システムであり、功績が認められれば
今より上の位階に進むことができ、
それに応じた役職に就く権利が得られました。
貴族でない者は六位どまりでしたが、位階によって収入も異なったため、
昇進の有無は官人たちにとって一大関心事でした。
ほとんどが官僚だった男性歌人
役職では太政大臣が政治のトップ。総理大臣に相当します。
→藤原忠通・藤原良経
右大臣・左大臣は太政大臣の次位ですが、
太政大臣の置かれなかった時期はトップの役目を担いました。
→源融・藤原定方・藤原実定
納言は古くは「ものもうすつかさ」といい、大・中・少に別れています。
「権」がつくのは定員外の官位であることを示します。
→大伴家持・在原行平・藤原兼輔・藤原敦忠・藤原朝忠
藤原公任・藤原定頼・源経信・大江匡房・藤原定家
納言に次ぐのが参議で、四位以上が任命されました。
→小野篁・源等・藤原雅経
八省(中務・式部・治部・民部・兵部・刑部・大蔵・宮内)の
長官を卿(きょう)、次官を大輔(たいふ)と呼びます。
→該当表記なし
各省の下の役所を職(しき)といい、
その長官を大夫(だいぶ)といいます。
→藤原通雅・藤原顕輔・藤原俊成
歌人を身分や役職から見ていくと
有名歌人でも身分の低い人が少なくなかったこと、
政治の中枢を担う人々が優れた歌を詠んでいたことなどがわかり、
なかなか興味深いものがあります。