読み物

『小倉百人一首』
あらかるた

【71】スカイツリーと業平


業平おそるべし

東京スカイツリー開業フィーバーは、
メディアが盛んに採り上げることもあって、収まる気配がありません。
地元商店街のゆるキャラ「おしなりくん」も大忙しです。

頭にスカイツリーを載せ、
歌を詠む平安貴族の姿をした「おしなりくん」の名前は
墨田区押上(おしあげ)と業平橋(なりひらばし)という
地元の二つの地名を組み合わせたもの。
業平橋はもちろん在原業平(ありわらのなりひら)にちなんだ地名です。

スカイツリー最寄り駅は、改名前は「業平橋駅」といいました。
業平橋の近辺には言問橋(ことといばし)という橋もあり、
言問通り、言問小学校、言問幼稚園までありますが、
これらも業平にちなんだもの。

さらについ最近、向島(むこうじま)に「言問姐さん」という
新たなキャラクター(芸者姿の招き猫!)が誕生しており、
千年を経ても衰えない業平の影響力に驚かされます。


ユリカモメに問う恋人の消息

これらの命名はすべて『伊勢物語』第九段によっています。

業平らしき失意の「をとこ」が「京にはあらじ」と思い、
友人たちとともに東に下っていきます。
「道知れる人もなくて」迷いながらの旅をつづけた一行は、
つらい旅のはてに隅田川(武蔵の国と下総の国の境)まで行き着きます。

渡し舟に乗って川を渡ろうとすると、
見なれない白い鳥が魚を獲っているのに遭遇。
渡守(わたしもり)にそれは都鳥(みやこどり)だと教えられ、

名にし負はばいざことゝはむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと

その名を都鳥というのなら さあ訊いてみようではないか
わたしの思うあの人は都に無事でいるのかと

舟に乗っていた仲間たちはみな涙を流しました。
だれもが愛しい人を都に残してきていたのです。
「ありやなしや」は「生きているかどうか」と同じで、
安否確認もままならないもどかしさ、心細さをあらわしています。

ところで、ここでいう都鳥は東京都の鳥でもあるユリカモメのこと。
都の鳥が都鳥、というのは偶然でしょうか。
昭和40年に都の鳥が制定されたとき業平のエピソードが参考にされたのか、
残念ながらそれは定かではありません。