ちょっと差がつく
『百人一首講座』
【2000年12月30日配信】[No.011]
- 【今回の歌】
- 源兼昌(78番) 『金葉集』冬・270
淡路(あはぢ)島 かよふ千鳥の 鳴く声に
いく夜寝覚めぬ 須磨の関守(せきもり)
寒い日が続きます。シューベルトの歌曲に「冬の旅人」というものがありますが、こんな時期に荒涼とした海辺を歩く旅人は、何を想っているのでしょうか。
現代語訳
(冬の夜)淡路島から渡ってくる千鳥の鳴き声に、幾夜目を覚まさせられたことだろうか、須磨の関守は。
ことば
- 【淡路(あはぢ)島】
- 兵庫県の西南部沖に位置する島です。
- 【かよふ】
- 「通ってくる」の意味です。他に「(淡路島へ)通う」や、「(淡路島と須磨の間を)行き来する」などの意味である、という説もあります。
- 【千鳥】
- 水辺に住む小型の鳥で、群をなして飛びます。歌の世界では、冬の浜辺を象徴する鳥で、妻や友人を慕って鳴くもの寂しいもの、とされていました。
- 【いく夜寝覚めぬ】
- いく晩目を覚まさせられたことだろうか、の意味。「ぬ」は完了の助動詞の終止形です。本来は「いく夜」と疑問詞が入るので、「ぬる」が正しいのですが、語調の面から「ぬ」にしたと思われます。
- 【須磨の関守】
- 須磨は、現在の兵庫県神戸市須磨区で、摂津国(現在の兵庫県)の歌枕。すでに源兼昌の頃にはなくなっていましたが、かつては関所が置かれていました。関守(せきもり)とは、関所の番人のことです。
作者
源兼昌(みなもとのかねまさ。生没年未詳。12世紀初頭の人)。
宇多源氏の系統で、従五位下・皇后宮少進にまで昇った後、出家しました。多くの歌合せに出席して、「兼昌入道」などと称しています。
鑑賞
摂津国須磨(現在の神戸市須磨)といえば、平安時代は流謫の地で、在原業平の兄、行平が流れ住んでいた場所です。その故実に基づいて創作されたのが、源氏物語の「須磨の巻」。老いた光源氏は退隠していたこの須磨で、友千鳥もろ声に鳴く暁はひとり寝覚の床もたのもしという歌を詠みます。この歌は、それを踏まえた歌なのです。
荒涼とした須磨で、海向かいに見える淡路島から千鳥が渡ってくる。その寂しい鳴き声に、関守がつい眠りを妨げられ目覚めてしまい、真夜中に自分の孤独な境遇をひっそりと実感する。なんと寂寞とした歌なのでしょう。
ただし、兼昌は実際に須磨の地でこの歌を詠んだのではなく、歌合せの「関路ノ千鳥」という題から創作したものです。
現在の須磨と淡路には、明石大橋が架かっており、車で島まで渡ることができます。須磨から西の明石までの海岸線は美しく、新幹線などの車窓から海を見ながらの旅も楽しいものです。