ちょっと差がつく
『百人一首講座』
【2002年1月10日配信】[No.048]
- 【今回の歌】
- 僧正遍照(12番) 『古今集』雑上・872
天津風(あまつかぜ)雲の通ひ路(かよひじ)吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ
明けましておめでとうございます。
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さて、新年といえば初詣。毎年年末に警視庁が正月三が日の人出予想を発表していますが、今年も9千万人近くの人がどこかしらの神社仏閣に初詣に行かれたようです。皆さんは初詣には行かれましたか?
初詣でおなじみなのが、神社のかわいい巫女さん。紅白の袴姿が優美で、天女のようでもあり、お正月のめでたさに相応しい情景といえるでしょう。
今回はお正月にふさわしく、美しい天女の舞を描いた一首をご紹介します。
現代語訳
天を吹く風よ、天女たちが帰っていく雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。乙女たちの美しい舞姿を、もうしばらく地上に留めておきたいのだ。
ことば
- 【天津風(あまつかぜ)】
- 「天津風」とは「空高く、天を吹く風」のこと。ここでは「天を吹く風よ」と呼びかけた形になっています。「つ」は「沖つ波」などと同じで、「の」と同じ意味の古い格助詞です。
- 【雲の通ひ路(かよひじ)】
- 雲の中にある、天上と地上を結んでいる通路のことで、天女がそこを通って天と地を行き交うと考えられていました。
- 【吹き閉ぢよ】
- 「雲を吹き飛ばして、天女の通り道を閉ざしてしまえ」という意味です。通り道を塞げば、天女が天上に帰るのを妨げることができるからです。
- 【をとめの姿】
- 「をとめ」とは「天つ乙女」、つまり「天女」のことです。この歌は陰暦11月の新嘗祭(にいなめさい)翌日に宮中で披露される「五節の舞」を舞う少女たちのことを歌ったものですが、少女を天女に見立てています。
- 【しばしとどめむ】
- 下二段活用動詞「とどむ」の未然形に意志の助動詞「む」の終止形がついた形で、「しばらく止めておこう」という意味です。舞う乙女たちがあまりに美しく、いつまでも見ていたいので、天に帰ってしまうのを、しばらくストップさせよう、という意味です。
作者
僧正遍照(昭)(そうじょうへんじょう。816~890)
俗名を良岑宗貞(よしみねのむねさだ)といい、桓武天皇の皇孫で大納言安世(やすよ)の子供でした。蔵人頭(くろうどのとう)として仁明天皇に仕えています。六歌仙の一人で出家する前は「深草少将」と呼ばれ、小野小町に恋する男として「大和物語」にも登場しています。仁明天皇が急逝した後、出家して叡山に入り、高僧として活躍しました。
鑑賞
天を吹く風よ、天上界と地上を結ぶ雲の中の通り道をしばらく吹き閉ざして塞いでおいてくれ。あの美しい娘達が舞っている姿があまりに美しく、しばらくそのまま見ていたいのだ。
お正月にふさわしい、天女たちの舞姿を描いた一首。「古今集」 の詞書によると「五節(ごせち)の舞姫を見て詠める」とあります。
「五節の舞」とは陰暦11月中旬に行われる新嘗祭(にいなめさい)の翌日、「豊明節会(とよのあかりのせちえ)」の宴の後に公家や国司の家から選ばれた未婚の美しい娘5人が踊る舞楽のことです。
もちろん公家の娘ですから天女ではありませんが、この舞の奉納自体が、かつて天智天皇が吉野に御幸したおり、天女が舞い降りてきたという伝説に基づいたものです。そこで僧正遍照は、少女たちの舞う姿があまりに美しかったので、こんな歌を歌ったのでしょう。
西洋ならば「エンジェルたちが下りてきて」といったところ。縁起の良い典雅な歌で、天女のはばたきが聞こえてくるようです。
僧正遍照は、出家する前の名前を良岑宗貞といい、深草少将と呼ばれていました。同じ六歌仙だった小野小町との恋愛は有名で、小町伝説の中には、こんな話もあります。
深草少将は、小野小町が地方へ下った後も恋するあまり、官職をなげうって小町の住処へ出向きます。小野小町は疱瘡を病んでいたために治るまでの時間稼ぎとして、「もし私に会いたいなら、毎日私の庭に1本づつシャクヤクの花を植えてください。それが100本になったら、あなたとお会いしましょう」と告げます。
そこで深草少将は毎日小町の家の門前に来て花を植えますが、ちょうど今日で100本というその日に嵐に遭い、少将は川に掛けた橋 が崩れたため濁流に呑まれ、死んでしまったのでした。
もちろん若い頃亡くなっていれば、出家することもないのでこれは伝説です。しかしこうした伝説が生まれたり恋愛で騒がれるということは、小野小町や深草少将など当時の有名歌人は、現代の歌手のような存在だったと想像できますね。
さて、もう三が日の初詣はお済みになられたと思いますが、全国の神社の参拝客ベスト10は2001年集計で下の通りです。
1位 明治神宮(東京都渋谷区・JR山手線明治神宮前駅下車)
2位 成田山新勝寺(千葉県成田市・JR総武線成田駅下車)
3位 川崎大師(神奈川県川崎市・京急川崎駅から京急大師線に乗換え、川崎大師駅下車)
4位 伏見稲荷神社(京都市伏見区・JR奈良線稲荷駅)
5位 住吉大社(大阪市住吉区・難波駅から南海電鉄南海線に乗換え、住吉大社駅下車)
6位 熱田神宮(愛知県名古屋市・JR東海道本線熱田駅下車)
7位 鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市・JR東海道本線鎌倉駅下車)
8位 太宰府天満宮(福岡県太宰府市・JR博多駅から地下鉄で西鉄福岡駅に乗換え、西鉄太宰府駅下車)
9位 大宮氷川神社(埼玉県大宮市・JR高崎線大宮駅下車)
10位 浅草寺(東京都台東区・都営浅草線/営団地下鉄銀座線浅草駅下車)
実はこうした有名な神社は、正月3が日には殺人的な混雑で行くだけで疲れるもの。まだ行かれていない方、15日までは正月だなんて説もありますので、混雑の落ち着いた今の時期にちょっとお参りに行かれるのもいいでしょう。神様も1日に数百万人を相手するよりよほど楽だ、と思っているかもしれませんよ。