一期一会
平成25年 冬
冬の対談 式年遷宮
式年遷宮から学ぶ、
大切なもの。
式年遷宮から学ぶ、大切なもの。
”自然に生かされ守られている”
その感謝の心を教えてくれるのが
式年遷宮です。
心のつながり、文化のつながり、
命のつながり・・・。
未来に伝えていくべき大切なことはー。
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中小路 宗俊
- 長岡天満宮 宮司
1958年、京都府に生まれる。
2011年に、先代の後を受け宮司に。
中小路家は菅原道真に仕えてきた系譜のひとつにあたる。 -
山本 雄吉
- 株式会社小倉山荘
1951年2月生まれ。
1951年に先代・山本國造が生菓子の製造販売『山本製菓舖』を創業。
以後、おかき・おせんべいの製造・加工・販売を手掛ける「長岡京 小倉山荘」を設立。現在に至る - 株式会社小倉山荘
連綿と続く式年遷宮
- 中小路
- 伊勢神宮では20年ぶりに第62回目の式年遷宮が挙行されました。その制度が立てられたのは天武天皇の時代で、690年に持統天皇によって、第1回のご遷宮が齋行されてたのが始まりです。それ以来、約1300年の時を刻んでいます。
- 山本
- 式年遷宮は、20年ごとに御社殿をはじめ、御装束や御神宝など一切を新しく調えて、旧殿から新殿へと神様にお遷りいただく祭祀です。遷宮の由来には様々な説があるようですが・・・。
- 中小路
- 式年遷宮のことを大神嘗祭と言います。20年に一度すべてを新しく調えることで、神様に感謝を申し上げ、神様の常若をお祈りするものですが、式年遷宮の原点は、お米を与えてくださった神様、天地の恵みに感謝を申し上げる神嘗祭に由来します。
- 山本
- 式年遷宮と稲作とは一見かけはなれているように思えますが、実は大きな関わりがあるのですね。私どもでは毎年、伊勢神宮に10月中旬、新穀奉納を行っています。私たちの命の糧であるお米を授けてくれる天地の恵みに対する感謝の気持ちからです。しかし、ご遷宮の儀式は、何故、20年周期に決められたのでしょうか。
- 中小路
- 技術・文化の伝承に深い関わりがあるようです。式年遷宮では、800種類1600点と言われる御神宝、御社殿をすべて造り直します。20年という周期は、国宝的技術を次世代に伝えていく上での、最長の期間と言われています。宮大工さんや職人さんも、10代で弟子入りしても一人前になるには20年かかるでしょう。さらに20年もたてば親方になって、弟子を指導できるようになります。そうして必ず同じものを造り替えることで、技術・文化を確実に伝えていこうとしたのです。そのため神宮には、東西に全く同じ宮地があり、20年ごとに隣を見ながら新しいものを建てるという仕組みにしているのです。
- 山本
- よく考えられていますよね。伊勢神宮は木造建築ですから、普通に考えれば、きれいな形で残るのは30年ほどでしょうか。それを早目に20年ごとに繰り返し建て替えることで、千数百年もの間、連綿と受け継がれているのですね。天地神明造りの棟持柱は、200年物と言われる御用材を木曽中山から伐り出されていると聞きます。当然、その御用材も永遠にあるわけではないですから、200年先を見据えて、大正時代から植林が行われていると聞きます。不断の準備と努力が、式年遷宮を支えていることがよくわかります。素晴らしいことですね。当神社でも私を含め神官たちで茅を刈りに行き、総代や氏子などと一緒になって茅の輪を手作りしています。
式年遷宮が繋ぐ大切なこころ
- 山本
- 式年遷宮という再生の仕組みを考え、永続性を担保してきたところに、日本の伝統文化と精神文化を継承していこうという強い意志が感じられます。天武天皇、持統天皇ともに日本の伝統文化と信仰を後世に守り伝えていくために、天地神明造りという日本の伝統様式で神宮を建立されたのかもしれませんね。
- 中小路
- 式年遷宮は、文化や技術を伝承する仕組みではありますが、その根本にある大切なものは、信仰を重んじる心ではないでしょうか。外宮では1300年以上、1日も欠かすことなく続けられている儀式があります。それは天照大神をはじめとする神々に一日二回、朝夕の食事をおつくりすることです。安定した食料の確保を願った先人たちの祈りと日本民族の信仰の深さを象徴しているように思います。
- 山本
- 私たちは、先人たちの営みや歴史を大事にしなければなりません。それは、その先にある先祖や神仏を大切にすることにもつながりますし、目に見えない存在や、もの言わない存在に対して、畏敬の念を持つことでもあります。そのような思いを自分の心に秘めて、それぞれが所属する地域や社会のために、自分たちは何をすべきかを考えながら生きることが、私たち人類の永続的な発展や、永遠の繁栄につながると思います。
- 中小路
- 伊勢神宮は「私幣禁断」の神社と言われています。本来は商売繁盛や合格祈願、縁結びなどの個人の勝手な願い事を聞いてくださる神社ではありません。そのような伊勢神宮に多くの日本人が参拝し続けてきたのは、天地の恵みに感謝し、国家の安泰と世界の平和を願う、人々の素朴な想いからだと思うのです。
私たちが後世に繋ぎたいもの
- 中小路
- 伊勢神宮の式年遷宮のように、企業においても永続的な発展を遂げることは大きな憧れなのではないでしょうか。
- 山本
- その通りです。私どもでも、目先にとらわれないで、「企業が永続していくためには、いま何をすべきか」を問い続けています。それには、常に原点に立ち返り、創業の精神を継承していかなければいけませんし、決して物を売ることだけではなく、心をお届けし、感動を提供しなければならないと思っています。また、お客様の嗜好も企業を取り巻く環境も日々変化しています。私どもは、今の状態に決して安住することなく現状を見直し、常にお客様に喜んでいただける価値を提供していかなくてはならないと考えております。企業の永続性を考えるとき、式年遷宮に見習うことがたくさんあります。
- 中小路
- 小倉山荘様として「後世に伝えていきたいもの」、その思いはどのようなことでしょうか。
- 山本
- 私どもでは、「小倉百人一首」をテーマに商品づくりを行っております。小倉百人一首は、恋の歌が最も多く詠われているように、人と人が想いを通わせるための手立てでした。春夏秋冬の風物を愛で、自らの想いを和歌になぞらえて相手に伝えていく。そのような日本の文化と相手を想う心を後世に継承することも、私たちの大切な役割だと考えています。私たちが百年・千年の後まで、時を超えて残していくべき価値は、お伊勢さんのように、人々の心に感動を呼び起こすものでありたいと念じております。また、その根底にある豊かな自然も、大切に守っていきたいと願っています。現在、環境に極力負荷をかけないお米作りに自社で取り組んでおり、耕作放棄地を多様な生きものが棲む、緑豊かな田んぼに甦らせたいと考えています。どんなに時代が移り変わろうとも、お菓子を通して育まれる人と人との絆を結んでいくことと同時に、人と自然のかけがえのない絆も大切にしていきたいと願っています。それが未来の子供たちへの「心づくしの贈り物」だと考えています。
- 中小路
- 神社にある手水舎は誰でもができる簡単な禊です。禊とは、穢れた身体を清めること。かつては神殿に赴く前には水に入って身を清めたといいます。参拝者の方に御参りの前に、手水舎で手を清めていただくのはそのためです。また、囗をすすぐのは、体内に潜む穢れをも清めるためなのです。
- 山本
- 私共には、「環境整備を徹底しよう」という社内的な約束事があります。整理・整頓・清掃・清潔・躾の五つの徹底です。これは仕事に挑戦する心の姿勢で、お客様を気持ちよくお迎えし、心地よい時間をお過ごしいただくには、とても大事なことなのです。
- 中小路
- 当神社でも、境内の掃除は毎日行っています。掃除するということは、心の鍛錬・修練だと思って取り組むと良いですよ。掃除とは、白身の心を祓い清めることですから。
- 山本
- おっしゃる通りだと思います。弊社においても、単に形式的な礼儀作法や品物の片付け清掃とは、まったく次元が異なると考えています。お客様第一主義を実践する上でも、真に心のこもったおもてなしは、環境整備から生まれるのだと指導しています。そして、それを毎日コツコツと少しずつではありますが、着実に進めていくことが大切なのです。よりお客様に喜んでいただける商品も、その環境の中から育まれるのではないでしょうか。また店舗では、お客様に四季のうつろいを身近に感じていただけるよう、季節の花を生けておりますが、これも無造作に生けるのではなく、野に咲く花の如く、そこに命を移すという想いを込めて生けることが肝要なのです。