読み物

一期一会

平成26年 春

春の対談 未来を結ぶ、
かけがえのない道

未来へ還ろう。

今年、世界遺産に登録されて10周年を迎える熊野古道。
かつて自然や神々につながっていた
懐かしく新しい確かな記憶を還り、
未来に続く持続可能な生き方、
「道」とは


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    満仲 雄二

    • 特定非営利活動法人
      熊野生流倶楽部 理事長

    1951年10月生まれ。
    環境デザイナー。
    1985年熊野三山の奥宮玉置山に、環(たまき)の仕組みを学び、内閣府認証NPO法人、熊野生流倶楽部を設立。自らを離れて自らを見つめ直す、心の環境デザインを提唱。現在に至る。

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    山本 雄吉

    • 株式会社小倉山荘 

    1951年2月生まれ。
    1951年に先代・山本國造が生菓子の製造販売『山本製菓舖』を創業。
    以後、おかき・おせんべいの製造・加工・販売を手掛ける「長岡京 小倉山荘」を設立。現在に至る


ありのままの自分自身と出会う旅

山本
昨年は、20年に一度の式年遷宮を迎え、「おかげ参り」で大変賑わっているお伊勢さんですが、今年は、世界遺産10周年を迎える熊野古道への関心が高まっているとお聞きします。「小倉百人一首」の撰者、藤原定家卿も後鳥羽上皇の熊野御幸に随行し、その苦労が「明月記」に残されています。遠く険しい道を、なぜ昔の人々は歩いたのでしょうか?
満仲
そうですね、本州最南端の紀伊半島にある熊野は、山々や森、木々に神が宿る聖なる地として、深く険しい大自然と信仰が重なり合う、日本の精神性としての「こころの原郷」なのです。かつてこの道を、決死の覚悟で貴族をはじめ文人墨客、老若男女が歩いたのですが、大自然の森羅万象の中に身を置いて、歩みを進めながら自らを見つめたのだと思います。つまり、非日常の中で自分のいのちを感じて見つめ直すために死出の旅に出て、頭で考えていた過去の自分を一旦捨てて生まれ変わる、再生・蘇生する人生の道だったのでしょう。
山本
孔子の論語に「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん」という言葉がありますが、死生観の問題として共通するものがありますね。定家も明月記の中で、道中の宿の寒さや豪雨の峠の辛さに悲鳴をあげながら、苦渋の旅を書き残していますが、いよいよ熊野本宮を目の当たりにして「感涙禁じ難し」と、遙か浄土に辿り着いたという、この上ない法悦さえおぼえたようです。人は大いなる自然に触れたとき、一切のものが生滅変化して無常という境地になり、我欲にとらわれず、本質的な「いのちとは何か?」「私たちはどうあるべきか?」といった、いのちの原点に立ち還るのではないでしょうか。
満仲
自らを離れて自らに問い続ける大切さを忘れてはいけないと思います。大自然の無常の摂理に出会ったとき、すべての人が生まれながらにして心の奥底にもつ、いのちの慈悲と寛容の真理の心が触発されて、自然とありのままに現れるのだと感じます。
山本
小倉百人一首でも、再生循環する自然のダイナミズムから学んだ、人が人を想うやさしい愛の心や、思いやりの心が数多く詠まれています。小倉山荘では、お客様の喜びを自分の喜びと思う「利他」の精神に根ざしたサービス魂を、米菓を通じて培っていきたいと、日々念じて実践しているところです。
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現代人が忘れかけているもの

満仲
「人が人を想う心」。とても素晴らしいですね。現代社会では、自分自身を知ることの大切さを忘れているように思います。私たち人間は弱いもので、ついつい頭で考え我良しになったり、問題が起これば人のせいにすることも多く、その風潮が社会に蔓延っています。「いのちや自分って何ですか?」という日々の自問自答の中に、素晴らしい生き方の答えがすべてあると思います。
山本
そうですね。人や自然を想う心は、四季の移り変わりの中に自らの人生や運命を映して、真理を読み取る自然観が根底にあると私も考えています。小倉山荘では、自然農法で田んぼづくりから始め、耕作放棄地をトンボやホタル、虫や鳥など、様々な生き物がいっぱい集まる田んぼへと蘇生し、人の心に失われつつある自然観を醸成し、自然との絆が深まるようないのちを結ぶ取り組みを行っています。
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満仲
それはまさに自然や人のいのちや絆を結ぶ「心の環境づくり」と言えますね。熊野古道はじめ様々な道を歩いた先人達は、自然がいのちのつながりであることを感じていたのでしょう。その自然とは人間をも内包し、自然を考えることはつまり自分を考えることだと、気付いていたのだと思います。
山本
文明が発達し便利になればなるほど、不思議なことをありのままに不思議と思うその感覚が、失われつつあるように思います。もの言わぬ存在に対して畏敬の念を抱き、地域や社会のために何をすべきかを考えながら生きることが、私たちの人類の永続的な繁栄につながると思うのです。

絆を結ぶ、かけがえのない道づくり

満仲
山や海、森や川、自然の恵みに対する畏敬の念、それは自然に対して本当に自ら頭が下がるといった感覚ですが、そうしてはじめて私たちは、素直に自然とつながり、大いなるいのちからたくさんのことを学べるのだと思います。熊野古道も、もともと道など無く、折りとともに時空を超え大勢の老若男女によって踏みしめられてきた結果できた「かけがえのない祈りの道」なのです。
山本
小倉山荘は、田んぼから人と地球の未来を考える循環型社会の実現を目指して、歩いた後に一輪の花が咲くような生き方を、今後も歩みたいと考えています、米菓という「モノ」だけでなく、米菓を通じて会話やふれあいが生まれる、人と人の絆を支援する「コト」を提供し、「絆をむすぶ道」を創りたいと願っています。そして、失われた自然を取り戻し、人を想うやさしい心を育み、未来へ継承してゆく「かげがえのない道」が実現できれば、この上ない幸せです。