読み物

をぐら歳時記

お米へのこだわりから生まれた日本の神事や祭事

『自然との絆 日本のこころを訪ねる』◆その三


神とともに収穫を祝う秋の祭

 秋の月見のお団子や正月の鏡餅とお屠蘇、春の節供の菱餅や白酒など、四季折々の行事に供えられてきたお米を使った食物の数々。日本人はなぜここまでお米にこだわるのか。秋の収穫祭の意義と合わせて、日本民俗学会会員でもあり、旅の文化研究所所長でもある神崎宣武さんにうかがってみました。


お米で作られたお供え
御饌(※1)(飯)、御酒(酒)、御鏡(餅)

 私たちが普段に見聞きしている神事や祭事の供え物(食物)を見てみると日本人がお米をとても大事にしてきたことがよく分かります。祭壇の最上位には、御饌(飯)、御酒(酒)、御鏡(餅)が供えられます。これは全て、材料にお米を用いて加工したものです。

 一年をかけて大事に育ててきたものを神さまに愛でていただき、おかげがあったとして食物のエネルギーを直会(※2)により共食、それぞれの身に取り込みます。お供えと分配。神と自然を敬う行事として伝えられてきた私たちの神事や祭事には、そんな意味が込められているのです。その中心にはお米がありました。


ごちそうとお米

 さて、よく耳にする“ごちそう”という言葉にも、お米がかかわっています。

 ごちそうの定義として「貴重な食材を用いる」、「手間ひまをかけて調理する」があげられますが、白いお米は、かつては貴重な食材でした。そして、ハレの日の行事には必ず登場する日本酒は、お米をもっとも手間ひまかけて造り上げたものです。お米を蒸すというのも、炊くよりは複雑な調理法です。蒸したもち米を杵で搗く手間を加えることで餅ができます。このお酒やお餅がお米を手間ひまをかけて加工した最上のごちそう・もてなしとみなされたのです。


お米がもたらした四季折々の和食

 お酒は、御神酒はもちろん、お正月のお屠蘇や桃の節供の白酒など、今日の年中行事でも親しまれています。お餅は、春の草餅、端午の節供の柏餅など、季節の変わり目を伝える食物、和の文化としても残っています。

 節供は中国から伝わり、五節供は江戸幕府が制定したものですが、お酒とお餅は節供にも付きものです。しかしながら、七夕の節供にはお酒やお餅が見られません。寒造りが中心であったお酒は、夏の醸造や保存には適していないのです。また、重陽の節供にはお餅がありません。お団子になります。ちょうどこの頃は収穫前にあたり、米びつの底に残ったのは割れた小米。これをすり潰して粉にし、お団子にして食べたのです。

 夏から秋にかけては収穫までの端堺期にあり、お酒とお餅もごちそうとしては不適当だったようです。四季の自然とともに生きた人々の、当時の生活風景を今に伝える習慣ともいえます。


収穫に感謝。
喜びもひとしおの秋祭り。

 いよいよ秋の刈り取りの季節。春の田の神迎えにはじまり、夏越の祓、収穫感謝祭など、稲の成長にしたがって、折目・節目の行事を行ってきました。なかでも実りを迎える秋は、春の稲の無事な成長を祈る切実な予祝祭とは違って、晴々とした本祝祭。収穫を感謝し、新米を供えて祝う刈上げ祝いや拔穂祭など、喜びもひとしおの祭りが行われました。


おかげあったと直会を楽しむ

 神事・祭事の祝い祭壇には、新米で炊いたご飯、新米を醸したお酒、新米を搗いたお餅などが供えられるのが秋祭りの特徴でした。その他、和米〔白米〕、荒米〔玄米〕、海のひろもの〔魚類〕・さもの〔干物〕、山のひろもの〔鳥〕・さもの〔しいたけ、まつたけ〕、野のひろもの〔葉物〕・さもの〔根菜〕が一対となって神々に供えられます。そして、それを直会で人々が相伴し、祝うことに秋にかぎらず日本の行事の意義があったといえます。


豊かな稲穂の実りを求め続けて

 ところで、お米はどうしてこんなにも深く日本人の暮らしに根付き、精神文化を投影するような食物になっていったのでしょうか。稲作の伝わった歴史はさておくとしても、亜熱帯にルーツを持つ稲は日本での自然栽培には適さず、それを取り入れた先人たちの苦労は筆舌に尽くしがたいものがあったと思います。

 それでも太陽、土や水の力を信じ、真っ白なお米の粒に神の生命力を見いだし、それを供え、相伴することで生きる力を得ようとしていたに相違ありません。

 そこに、神と自然を強く敬う心が生まれたのではないでしょうか。

 稲の品種は、改良に改良が重ねられ、やがて日本列島を西から東、そして北へと稲作を広げていきました。時には天地自然の脅威に慄き、その時々に神仏・先祖に祈り、豊かな稲穂の実りを求め続けてきたのが私たち日本人だといえます。

■用語解説■
※1 御饌(みけ)御酒(みき)御鏡(みかがみ)
御饌は神さまに供える食物、御飯が代表。御酒は神さまに供える酒。おおみき、おみき。御鏡はかがみもち。正月に神仏に供え、または吉例の行事などに用いる平たく円形の鏡のように作った餅。
※2 直会(なおらい)
神事が終わった後、供えられた神饌などを人々が相伴し、いただく宴。