読み物

をぐら歳時記

ものづくりへのこだわりと美の伝統

平安の雅を伝える匠たち 一


「京の夢・平安の色」独自染色技法を創出
日本の美『夢こうろ染』光により、染め色七変化
染色作家 奥田祐斎さん


 京都・嵐山、小倉百人一首の故郷でもあり、日本文化の郷里でもあるこの豊かな自然に包まれた嵯峨野嵐山の工房に、光によって染め色が変化する、世界に類を見ない染色技法『夢こうろ染』が生まれました。
 『夢こうろ染』は、布が光を受けると、時にたおやかに、時に凛として鮮やかに、美しくも深みのある”色変化”を起こす、まさに夢色の染めといえる技法です。
 この技法の生みの親でもある奥田祐斎さんにお話を伺いました。


千年の悠久の時を経て日本の色が甦る
光によって色が変わる染色が、
自然に寄り添う和風文化を伝えてくれる

 『夢こうろ染』のみなもとは、1200年前平安時代、天皇の第一礼装の色とされた「黄櫨染」にありました。
 その曜変色をもつ染色は、和風文化の祖ともいえる嵯峨天皇の詔による”天皇の色”として、歴代天皇の装束が保管される広隆寺に1200年の時を経て、眠っていたのです。

 祐斎さんは「黄櫨染」について「奈良時代は、唐からの舶来品など、主に大陸文化・輸入文化の吸収が日本の生活様式に影響を与えたものでした。織物や刺繍などがその最たるものでしょう。
 しかし平安京遷都後、あふれる山の緑や美しい川の流れなど、京の移ろいゆく自然が日本人の美意識に強く影響を与え、日本の美は変化するものの中に見出されるようになっていきます。

 四季の変化を愛でるように、時間の経過を楽しむことが美となり、ファッションなども、風を取りいれる着物が長く愛用され、自然と寄り添うことが日本人の心として形成されていったようです。
「黄櫨染」はその精神の象徴でもあります。ちなみに西洋では、ファッションは人間を包み込むもの、防寒などの意味もあり、自然とは寄り添うものではなく対峙するものなのです。
 あえて言えば、西洋文化は人間中心、和風文化は自然とともに、といったところでしょうか」と語ってくれました。


伝承を守り、伝え、その伝承を超えて伝統が生まれる京都には、
日本の美意識を育てる伝統が数多くある

 「こうした平安期の初頭に、光を受け変化する「黄櫨染」の存在が、中国・唐の模倣ではない、日本人の感性にもとづき、日本の美意識を主張する、”国風文化”創出の始まりをうかがわせるものではないか、「黄櫨染」は、1200年前に創り出された、まちがいなく日本最高位の草木染の一つです。

 当時の職人が伝えるこの日本古来の美の技法を現代に遺したい、甦らせたいとして、多くの方のご協力を得て生まれたのが『夢こうろ染』です。
 もちろん幻の天子の染色がそのまま再現できたとは考えていません。古文書などを頼りにしながらも、染料の選定、調和点などに新しい工夫、新しい技法なども試みて、ようやく完成したものです。

 古き良きものを正しく伝えるのが伝承であれば、伝承を超えて新しい何かを創造することが伝統だと思います。京都にある数多くの伝統はそうした”温故知新”を経て生まれたものだと思います」と祐斎さん。

 
 


平安王朝から豊かな自然に恵まれた京都嵐山
その変わらぬ心地の良い空気と優しい水が
和風文化の源流

 「もう一つ、日本の美しい染めを表現するのに欠かせないのが京都の水です。柔らかく、優しい水は、京文化の特徴です。京料理、京菓子など、その伝統は京の水なしでは成立しません。
 染料と布、そして水との組み合わせで広がる染めの表現。とくに”にじみ”を美しく表現できるのは京都の水のおかげ。嵐山のこの地には、気持ちよく自分の限界を超えられる染師 祐斎がいます。」

 季節や時の移り変わり、刻々と変化する自然の美しい味わいとともにある日本の美意識。
その平安の世から続く和文化の魅力と伝統の美しさが、『夢こうろ染』とともに、ここ京・嵐山に生きています。
(嵐山 祐斎亭にて)