読み物

わたしたち

2019年 出逢いの春


絆をむすぶ小冊子

わたしたち

出逢いの春 新しい物語のはじまり

春は成長した自分と出逢う季節。
桜に祝福されて、ことしも新しいはじまりを

季節はたしかな足取りで進み、ことしもまた、桜咲く春を迎えました。

春といえば、新しいはじまりの季節。親に手を引かれておっかなびっくり向かった小学校、友だちとわいわい騒ぎながら迎えた中学、合格という喜びにひたった高校や大学、そして、一人で暮らしていくという自覚を持った社会生活。

春の想いを数えれば、さまざまな自分と出逢うことができ、それは自分が歳を重ね、成長したことの証し。

人生は、季節との巡り会い。そこには胸おどる夏もあれば、物思いにふける秋があり、心が凍えるような冬もあります。人はそれぞれの季節にいろいろなことに出逢い、ふたたび春を迎えるのです。

そして、朝が来れば陽が昇るように、春になると桜はかならず花を咲かせます。花を散らしたあとも桜は生きつづけてつぎの春、やがてひとまわり大きくなった自分を祝福するかのように、花を咲かせてくれるのです。

サミュエル・ウルマンという詩人の詩に、こんな一節があります。

「青春とは人生のある時期ではなく、心の持ち方をいう」

この春、もし、新しいはじまりに不安を感じていたならこの一節を思い出し、つぎの一歩を踏み出してほしい。そして、めぐる季節のなかでいろいろなことに出逢い、ふたたび春を迎えたとき、どうぞあたりを見まわしてください。そこにはかならず、満開の桜が咲き誇っているはずです。


わたしのありがとう物語

長岡京、小倉山荘の社員が体験した、忘れられない「ありがとう」。

第一回は、並河店の田中友子の物語です。

毎年、春になると、思い出す出逢いがあります。

「仏事の商品のことで、聞きたいことがあるのだけれど」その方は、わたしの顔を見るなりそうおっしゃいました。そして、少し緊張しながら接客を続けるわたしに、こう続けられました。

「娘がこちらのおせんべいが大好きでねぇ。いつも二人で食べていたから、四十九日にはどうしてもそのおせんべいを使いたいの」

思いもしなかった内容のお話に衝撃を受けました。そして思わず泣いてしまい、お見送りのときまで涙を止めることができませんでした。すると翌日、「きのうは娘のために泣いてくれて、本当にありがとう。また、あなたと逢って話がしたいわ」というお電話をいただき、以来、何度も店に足を運んでいただくようになりました。

そして、顔を合わせるたびに二人で泣き、「泣いてばかりいたら娘に怒られちゃうわ」という言葉にさらに涙することを繰り返しながら、四十九日のお手伝いを終えました。

それからも、その方は折に触れて来店され、こちらもようやく涙を流すことなく話ができるようになりました。そして、桜の咲くころ、店頭に立つわたしを見てこうおっしゃったのです。

「これまであなたを何度も泣かせたから、きょうは笑顔になってもらおうと思ってお邪魔したのよ。もうすぐ、新しい娘ができるの。息子が結婚するのよ・・・。」

人生は良いときもあれば、悪いときもあります。しかし、明けない夜はないように、どんなに苦しくて悲しいときであっても、明るい明日は必ず巡ってくると信じ、常に明るく前向きに人生を歩む大切さを教わったように思います。


珠玉の歌に詠われた、人が人を想う気持ち

こころでよむ『小倉百人一首』

君がため 春の野にいでて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ

光孝天皇の第十五番。詞書によると、これは天皇が親王であったとき、ある人に若菜を贈る際に添えた歌であり、その若菜とは春の七草のこと。春とはいえどまだ雪の降るころ、しかし大地には青い芽が萌え出でて、それを摘んで食すことは自然の力をありがたくいただき、自らの心と体を若々しくよみがえらせ、その一年の邪気を払うことにつながると考えられていました。

野原に出て、着物の袖にしきりに降りかかる雪をものともせず、若菜を摘む情景が詠まれた三十一文字。愛する人の健やかな明日を想う気持ちが伝わってきます。

誰かのしあわせを願う、一途な想いが相手との距離を縮め、やがて絆の始まりとなることを、千年を超える歌が教えてくれます。


書いて、整心 そっと、一息

一期一会 第一回

言葉の意味を噛みしめながら一文字ひと文字書いてみましょう。

一言芳恩

【一言芳恩(いちごんほうおん)とは】

ちょっと声をかけてもらったことを忘れずに感謝すること。また、一声を賜った恩に感じてその人を主人と仰ぐこと。


『わたしたち』発刊に際して

人や企業というものが、世の一切の力を借りて生かされている存在であるとすれば、事業の真の目標は「人々の幸福の創造」という永遠普遍の命題の達成であり、企業の存在理由もそこにあります。

なぜなら人間は、人とのかかわりあいの中で生きていかなければなりません。

人の喜びをわが喜びとし、人の悲しみをわが悲しみとする愛の事業経営こそ、私どもが目指すべき基本姿勢であり、人々の幸せを願う善き商品と善きサービスの証しとしてお客さまから賜るご褒美こそが私どもの生きる糧と心得ます。

この想いを礎とし、一期一会のご縁ある方々に、些少なりとも安らぎをご提供できればと発刊いたしましたのが、皆さまと私どもを結ぶ小冊子『わたしたち』でございます。

日常の中にある希望や勇気、感謝や幸せに材を求めながら、決して変わることのない、日本人ならではの心の在り処を訪ねてまいりたいと考えています。

ほんのひとときではございますが、潤いに満ちた心の旅をお楽しみいただけましたらこれに勝る喜びはございません。

皆さまのお幸せを願いつつ、発刊のご挨拶といたします。

報恩感謝 主人 山本雄吉