読み物

わたしたち

2019年 気持ちを伝える初夏


絆をむすぶ小冊子

わたしたち

ふだん伝えられない 気持ちを伝える初夏

親の想いや夢を受け継ぐ
それはきっと最高の贈りもの

母の日とともに、一年に一度、ふだん照れくさくていえない感謝の気持ちを伝えられる父の日。子どもがいても、このふたつの日だけは子どものまま、という方も多いのでは。

親のよろこぶ顔がみたい。だから、本当にほしいと想っているものを贈りたいし、叶えたいと願っていることを実現してあげたい。

あらためて、親の好みにあれこれ想いをめぐらせて、はたと気づくこと。それは、親についてあまり知らない、ということ。

どうしてその仕事を選んだのか。どのようにしてふたりは出逢い、なぜ結婚しようと決めたのか。どんな想いから、自分にこの名前をつけようとしたのか。

平凡な人生を歩んできた、そう想っているのかもしれない。だから、人に話すほどのことでもないと考えているのかもしれない。子どもは子どもで、いつでも聞けるから、いまさら聞くのも照れくさいから、いつまでも聞かずにいる。

親の足跡を知るのは、とても大事なこと。これまで何を想い、どんな未来を夢見てきたのかを振り返ることは、親にとっては生きてきた証しとなり、子どもにとってはこれからを生きる知恵や勇気となる。
だから笑顔も、涙も、何気ない出来事も、すべてを聞いておきたい。

ことしの父の日は、親の想いや夢を受け継ぐ日。もしかすると、そんな時間をともにすることが、いちばんの贈りものなのかもしれません。


わたしのありがとう物語

長岡京、小倉山荘の社員が体験した、忘れられない「ありがとう」。

第二回は、小倉山荘ファーム・濱田博之の物語です。

わたしは六年前の入社時から、米づくりに取り組んでいます。
この仕事には、せんべいやおかきの素材をつくるということだけでは終わらない目的があります。それは、里山の耕作放棄地を田んぼによみがえらせた上で、農薬などに頼らない「生きものいっぱい田んぼのお米」の農法を確立することです。

初めての米づくりは、まさに苦難の連続でした。
田植えを終えるやいなや苗の多くをシカに食べられたり、水が漏れて田んぼがカラカラになりかけたり、それでもなんとか稲穂を実らせたと思った矢先、こんどは台風の被害にあってしまったのです。

とはいえ、落胆しているわけにはいきません。そもそも農薬などに頼らない、自然そのままの米づくり自体が、現代においては容易なことではないのです。
目の前にある試練を乗り越えるべく、専門書を読み漁ったり、この道の権威とされる方の教えを請うたり、さらには田んぼの息づかいに耳を傾けることで、自然と上手に折り合うための知恵をたくわえていきました。

するといつしか、部署を越えて数多くの同僚がサポートしてくれるようになりました。
目的達成はまだ遠いですが、田んぼを通して生まれた絆に助けられ、年を追うごとに米の収穫量は増えています。

健やかな米の命の源は、太陽の光をはじめとする大自然の営みと、田んぼに棲む無数の生きものたちの小さな営みです。そして、健やかな稲は実るほどに穂先を下げます。その姿はまるで、自分を生かし、育ててくれたすべての存在への感謝の気持ちを表しているかのようです。

物事がうまくいかなくても、前向きな心を失わなければ自分を支えてくれる人に出逢える。そして、その恩に報いようと努力をつづければ、苦心はきっと実を結ぶ。田んぼに出て、一生懸命に育つ稲を見るたびに、そんな気持ちがわいてきます。そして、「きょうもがんばろう」という思いがこみ上げてきます。


珠玉の歌に詠われた、人が人を想う気持ち

こころでよむ『小倉百人一首』

君がため 惜しからざりし いのちさへ 長くもがなと 思ひけるかな

恋と生への切なる願いが詠われた、藤原義孝の第五十番。
その大意は、あなたに逢うためならいのちさえ惜しくないと想っていたが、こうして逢うことができた今、そのいのちが惜しくなり、このままいつまでも逢い続けたいと想うようになりました。

作者が恋を成就した後に、ようやく得たもの、それは生きているよろこび。
人は、人を愛し、初めていのちの大切さに気づき、愛する人と共に喜び、悲しみを分かちあうために、少しでも長く生きたいと願う。
この歌を味わうたびにいつの時代も変わらぬ、人の心の根にあることに心動かされます。

作者の藤原義孝は、わずか二十一歳でこの世を去りました。その無念を想うと、歌に込められた願いがひとしお胸に迫ります。


書いて、整心 そっと、一息

一語一会 第二回

言葉の意味を噛みしめながら一文字ひと文字書いてみましょう。

柳緑花紅

【柳緑花紅(やなぎはみどりはなはくれない)とは】

柳は緑色、花は紅色といったように、あらゆる物事は自然の理にのっとり、それぞれ個性を備えていることのたとえ。


生涯青春

人生に、ある気付きを与えてくれる話として、こんな一編があります。

三人の石切工がともに仕事に勤しんでいたときのこと、通りすがりの賢者が「あなた方は何をしているのですか」と尋ねました。
一人目は「これで生計を立てているのです」と良い、二人目は「国中で最もよい石切りの仕事をしています」と答え、三人目は夢見るような眼差しで天空を見上げ、「この地にすばらしい聖堂を建てるのです」と熱く語りました。

石切工のそれぞれの言葉が表しているように、人の考え方はまさに三者三様であり、その人生にもさまざまな道があります。
しかし、願わくば第三の男のごとく、理想とロマンを忘れることなく、希望に充ちた道を目指したいものです。

報恩感謝 主人 山本雄吉