読み物

わたしたち

2019年 さわやかな風に誘われて秋空の下へ


絆をむすぶ小冊子

わたしたち

さわやかな風に誘われて 秋空の下へ

一年に一度 家族の絆と成長をこころに刻む運動会

秋といえば、運動会のシーズン。子どもの運動会が近づくと、小学生のころを思い出す方も多いことでしょう。

客席をチラチラ見て、手を振る家族を見つけて力いっぱい手を振りかえした。

休憩時間はピクニック気分で、家族そろって食べるお弁当の味は、ほかのどんなご馳走よりもおいしかった。
ふだん物静かな父が、それまで聞いたことがないくらい大きな声で「がんばれ!」と言ってくれたことが、なによりも励みになった。

学年が上がるにつれて、家族が観に来るのがだんだん恥ずかしくなり、「もう来なくていいよ」なんてそっけない態度をとったこともあったけれど・・・。いま振りかえると、運動会にはすてきな思い出しか残っていない。

親の目から見ると、一年に一度の運動会は、子どもの成長をあらためて感じるとき。

一年生のころは先生に手を引かれて歩いていたのが、いつの間にかキリッとして下級生を引っ張っている。
一等になれなくて悔しくて泣き、つぎの年も一等賞をとれなかったけれど、「一生懸命やったから」と笑顔を見せる。そんな姿は、可愛く、まぶしくて誇らしい。

子どもはこれからもっと成長し、いろんな人と出逢い、さまざまな経験をして、いつか家族を持つ。そして自分と同じように、小学生のころを思い出すそのときには、すてきなことだけを思い出せるようにしてあげたい。だからことしも、大きな声で。

「がんばれ!」


わたしのありがとう物語

長岡京、小倉山荘の社員が体験した、忘れられない「ありがとう」。

第四回は、西丹波工場・堀江良輔の物語です。

わたしは十四年前の入社時から、せんべいづくりに取り組んでいます。
おいしい菓子を通じて、多くの人に喜びを届けたい。そんな思いからこの道を目指したのですが、せんべいを一人で焼けるようになるまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。
せんべいをおいしく、見た目よく焼き上げるには火加減もさることながら、生地の乾燥の調節も重要です。ひとくちに乾燥といっても、生地の種類はもとより季節や天候によって必要な時間は異なり、微妙な差が焼きの出来不出来を左右します。

最初のころは失敗の繰り返しでした。上司や先輩から何度も「これはお客様に出すものではない」と厳しく言われ、そのたびに「生地は生き物だから、その時々の状態を感じることが大切だ」と教えられました。

毎日、一時間おきに乾燥機の中の生地に触れた後、その温度と水分量を測るなど、生地の状態を肌で感じとるための取り組みを続けました。疑問点が生じれば、その都度仮説を立て、試行錯誤を重ねました。

来る日も来る日も生地と対話するように接しているうちに、肌触りのかすかな違いがわかるようになりました。そしてさらに試行錯誤を重ねることで、その時々にちょうどよい乾燥時間が見極められるようになり、それからは自信を持ってせんべいを焼けるようになったのです。

努力は嘘をつかない。わたしはせんべいづくりを通して、この言葉の意味がわかるようになりました。
そして、お客様に喜びを届けるためには、一切の妥協を許してはならないことを胸に刻むことができました。

ありがたいことに、お店から「おいしいおせんべいをありがとう」というお声をきかせていただいています。
これからもお客様の「ありがとう」の声を力に変え、初心を忘れることなく、せんべいづくりに取り組んでいきたいと思います。




珠玉の歌に詠われた、人が人を想う気持ち

こころでよむ『小倉百人一首』

秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ

苦労に苦労を重ねて田を育て、やっとの思いで刈り入れた稲。この辛苦の結晶をけものたちから守るため、粗末な小屋で屋根から濡れる夜露に濡れながら、寝ずの番をする農夫を思いやって詠った天智天皇の第一番。
だでさえ寂しい秋の夜長を、ひとり冷たく明かさなければならない辛さと侘しさが、三十一文字に滲みます。

この歌はもともと『万葉集』に採られ、民謡のように多くの人に口ずさまれていた、詠み人知らずの一首。それが徐々にかたちを変えながら天智天皇の作と伝えられるようになり、藤原定家も天智天皇の歌として、自ら編纂した『小倉百人一首』の巻頭に据えたものとされています。

真の作者が誰であろうとも、どんなに時代が移ろうとも、この歌は人を思いやる気持ちの美しさをわたしたちに教えてくれます。


書いて、整心 そっと、一息

一語一会 第三回

言葉の意味を噛みしめながら一文字ひと文字書いてみましょう。

清風明月

【清風明月(せいふうめいげつ)とは】

清らかな風が心地よく、明るく澄んだ月が美しい秋の夜長。時間に追われる毎日だから、このひと時を大切に。


いつまでも、感動する心を忘れることなく

「人を感動させようとするなら、まず自分が感動せねばならない。そうでなければ、いかに巧みに描かれた作品でも決して命が宿ることはない。」

「晩鐘」や「落穂拾い」など、農村に生きる名も無もない人々の姿を真摯な眼差しで見つめ、尊厳をこめて描いた作品で名高い十九世紀の美の巨匠、ミレーの言葉です。

芸術創造の原動力が感動にほかならないことを教えてくれるこの一言は、人生という作品づくりにも真実を言い得た至言といえます。

永い人生には実に多くの出会いがあります。風景、物、そして人。一つひとつの巡りあいをかけがえのないものと尊ぶ、一期一会の心をもてば、どんなに小さな出会いにも感動が生まれ、人生という名の大作に新たな息吹とさらなる奥行きを与え、みずみずしい輝きを放たせることができます。

いつまでも、出会いを喜ぶ心の純真さと、今日を生きることへの感謝の念を忘れずに、日々過ごしたいと思います。

報恩感謝 主人 山本雄吉