読み物

一期一会

平成25年 夏

夏の対談 夏越の祓

伝統文化は、
人の心と
時に
よって磨かれる。

私たちの暮らしの中には、
さまざまな行事があります。
それらの行事の中には、
古くから伝承されてきたものも
少なくありません。
伝統文化とは、ただ単に形式を
まねたからといって
受け継がれていくものではなく、
そこに心が伴ってこそ、
初めて未来へと繋がっていくもの。
ともすれば、なおざりにされてしまう
「慈しみの心」や「人を思いやるやさしさ」というものを、
私たちも自身の心を
磨くことで育んでいきたいですね。


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    中小路 宗俊

    • 長岡天満宮 宮司

    1958年、京都府に生まれる。
    2011年に、先代の後を受け宮司に。
    中小路家は菅原道真に仕えてきた系譜のひとつにあたる。

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    山本 雄吉

    • 株式会社小倉山荘 

    1951年2月生まれ。
    1951年に先代・山本國造が生菓子の製造販売『山本製菓舖』を創業。
    以後、おかき・おせんべいの製造・加工・販売を手掛ける「長岡京 小倉山荘」を設立。現在に至る


伝統文化は、形ではなく心を継承すること

山本
小倉山荘のコンセプトである「小倉百人一首」の和歌の中に、過ぎし半年の罪・穢れを祓い、来る半年の無事を祈る行事「夏越の祓」を詠ったものがあります。それに関連して、私共では十数年前から夏限定で『夏越し歌』という商品を販売しています。
その時より、ただ単に商品を提供するだけでなく、お客様に商品にまつわる由来や伝統文化に触れていただける機会を創りたいと考えていました。そこで五年ほど前から『竹生の郷』において「茅の輪」を設置し、「夏越の祓」の神事を執り行うことにしたわけです。お客様に体験していただくことで、伝統文化やその心というものを少しでも継承していければと考えているのです。
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中小路
確かに、そういった体験は大切ですね。私自身も神事を執り行う中で、「夏越の祓」の背景にある感謝といたわりの精神みたいなものを伝えられればと思っています。
山本
精神というものは、言葉で伝えることが難しいですよね。結局の所、心で感じてもらうしかないと思うのです。ですから体感してもらうことが重要だと考えています。「内観」という言葉がありますが、表面的なことだけを見るのではなく、その根底にある内の心を内面的に観ていくことが、継承に繋がると思います。
中小路
神事もある意味、内観を大切にしたものと言えます。何より清らかであることが重んじられ、自身の精神状態が参列者にも伝わると思っています。
ここで少し、「夏越の祓」における神事の手順について、ご紹介させていただきます。まず茅の輪の前に祭壇を設置し、修祓を行います。修祓とは、神事を執り行う前にさまざまなものに付いている穢れを祓い清める儀式です。次に大祓を行います。丁寧な祝詞をあげ、祓串という白木の棒先に細かく切った紙片を付けたもので左・右・左と振って祓い、切麻という細かい麻入りの紙片を撒いて清めます。その後、神主が先頭にたって、参列者と一緒に茅の輪のくぐり初めを行います。
山本
もう一つ「夏越の祓」などを行う理由としては、社員教育といった側面もあります。社員が伝統文化を理解していなくては、そのことをお客様に伝えることはできません。ですから、茅の輪作りは、川原に行って茅を刈るところから始めています。そして社員自らの手により、心を込めて直径2m程の茅の輪を作ります。
中小路
それは素晴らしいことですね。当神社でも私を含め神官たちで茅を刈りに行き、総代や氏子などと一緒になって茅の輪を手作りしています。

季節の贈り物は、
思いやりの心を届ける風習

中小路
大晦日が新年を迎えるための大切な日であったのと同様に、六月三十日も神に前半年の間の無事を感謝し、収穫までの後半年の無事を祈るための祓いの日(心身の穢れを除くこと)と考えられたようです。ですから十二月の方を「年越し」と呼ぶのに対し、六月の方を「夏越し」と呼んだと言われています。
山本
この神事が、半年間無事にお過ごしくださいという想いを伝える、御中元・御歳暮のしきたりにも繋がったのではと私は考えています。人をねぎらう心を奥ゆかしく伝える贈り物文化は、そういったところから来ていると思うのですが。
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中小路
「夏越の祓」に限らず、地域ごとに行われる様々な季節の行事は、今の私たちの日常に親しく馴染んでいます。日本の暮らしの中には、四季折々の営みに寄り添うやわらかさがあるように思いますね。
山本
贈答の文化にしても、季節の移ろいを楽しみ、贈る相手のために心を尽くす「おもてなし」の一つです。御中元・御歳暮といった贈答の機会は、人が人を思いやるやさしい気持ちの表れだと思います。ですから今日まで、年二回「夏越し」と「年越し」の時期に贈り物を届ける風習が継承されているのでしょう。

楽しみながら、
七夕の意味を知って欲しい

山本
「夏越の祓」と同様に「七夕」も「百人一首」の和歌の中に詠われています。七夕は秋の収穫作業を控え、農事の妨げとなる悪霊を追い払う行事ともいわれています。私共は、米づくりも行っていますので、豊穣祈願にも繋がるという想いで、『竹生の郷』にて「七夕」飾りを実施しています。
中小路
当神社では、本殿の両側に笹を飾り、七月七日に神事を執り行っています。祭壇を設置し、その上にお供え物を置き、祝詞を上げます。笹には、神の御霊が宿るとされていますので、取り外した七夕飾りは、皆様が書かれた願いが天に届くようにと、お清めした後にお炊き上げしています。小倉山荘様の笹も同様にしております。
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山本
ありがとうございます。笹は、長岡天満宮様から拝受させていただき、六月三十日に『竹生の郷』の長屋門の中に設置しています。七夕は、気さくなイベントとなっているので神事は執り行ってはいませんが、お子様からお年寄りまで多くの方に楽しんでもらっています。今年度からは、お祓いしていただいた短冊を使用したいと考えています。

佇まいを整えるとは、
心の豊かさを育むこと

中小路
神社にある手水舎は誰でもができる簡単な禊です。禊とは、穢れた身体を清めること。かつては神殿に赴く前には水に入って身を清めたといいます。参拝者の方に御参りの前に、手水舎で手を清めていただくのはそのためです。また、囗をすすぐのは、体内に潜む穢れをも清めるためなのです。
山本
私共には、「環境整備を徹底しよう」という社内的な約束事があります。整理・整頓・清掃・清潔・躾の五つの徹底です。これは仕事に挑戦する心の姿勢で、お客様を気持ちよくお迎えし、心地よい時間をお過ごしいただくには、とても大事なことなのです。
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中小路
当神社でも、境内の掃除は毎日行っています。掃除するということは、心の鍛錬・修練だと思って取り組むと良いですよ。掃除とは、白身の心を祓い清めることですから。
山本
おっしゃる通りだと思います。弊社においても、単に形式的な礼儀作法や品物の片付け清掃とは、まったく次元が異なると考えています。お客様第一主義を実践する上でも、真に心のこもったおもてなしは、環境整備から生まれるのだと指導しています。そして、それを毎日コツコツと少しずつではありますが、着実に進めていくことが大切なのです。よりお客様に喜んでいただける商品も、その環境の中から育まれるのではないでしょうか。また店舗では、お客様に四季のうつろいを身近に感じていただけるよう、季節の花を生けておりますが、これも無造作に生けるのではなく、野に咲く花の如く、そこに命を移すという想いを込めて生けることが肝要なのです。