読み物

一期一会

平成26年 冬

冬の対談 人の心を結ぶ、
還魂蘇生の道

人と地球の
絆をむすぶ。

今年、世界遺産に登録されて10周年を迎える熊野古道。
かつて自然や神々につながっていた
懐かしく新しい確かな記憶を還り、
人と地球の絆をむすぶ生き方、
「道」とは


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    満仲 雄二

    • 特定非営利活動法人 熊野生流倶楽部 理事長

    1951年10月生まれ。
    環境デザイナー。
    1985年熊野三山の奥宮玉置山に、環(たまき)の仕組みを学び、内閣府認証NPO法人、熊野生流倶楽部を設立。自らを離れて自らを見つめ直す、心の環境デザインを提唱。現在に至る。

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    山本 雄吉

    • 株式会社小倉山荘 

    1951年2月生まれ。
    1951年に先代・山本國造が生菓子の製造販売『山本製菓舖』を創業。
    以後、おかき・おせんべいの製造・加工・販売を手掛ける「長岡京 小倉山荘」を設立。現在に至る


千寿万世の未来をひらく

満仲
昨今、東日本大震災や未曾有の津波をはじめ、高温多雨の異常気象により全国各地で頻発する土砂災害など、自然の異変が明らかになってきています。このような自然災害が起きて、ようやく「自分たちは自然に生かされているんだ」と、改めて深く気が付かされるほど、現代の文明は私たちの本質的な心を麻痺させていると感じています。今回の熊野古道世界遺産10周年が、単に物見遊山の観光に終わらず、私たちの生き方を見直す一つの契機になればよいのですが。
山本
確かに自然が破壊され、人心が荒廃し、便利さと自己満足の文明がどんどん進んでいる昨今、生活観や自然観、ものの考え方、ライフスタイルを見直す転換期に来ていると思います。人間の寿命はたかだか約80年ですが、これからも地球と人類が安泰であるためには自然を愛し、人を愛し、事の本質を見抜く力が今こそ多くの人々に求められているのではないでしょうか。わが社では人が人を想う心を育み、命の母胎である自然への配慮を大切にしながら、未来永劫存続発展して人と地域社会のお役に立ちたいと願っています。
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満仲
まさに古来より再生と創造の働きを永続的に果たす熊野は、私たちの生き方を映す鏡です。森羅万象、みな同じ絆で結ばれていることを再確認できる場だったのです。おっしゃるように、私たちの文明の時間的な視座を、人間ではなく森羅万象の一部の人類という観点をもって、百年・千年の未来の地平から大局的に捉える時だと思います。それこそが大自然の法則に従って、自然の理にかなった行動哲学なのだと思います。
山本
そのために、「私たちはどうあるべきか」を考え、米菓という「モノ」だけではなく、会話やふれあいが生まれる絆を、感動とともにお届けするために、どうあるべきかを考える時期がきていると思います。人と人の絆のみならず、人と自然の守らなければならない絆はどうあるべきか・・・。わが社が工場に太陽光発電システムを取り入れたり、「田んぼに自然を取り戻そう」を合い言葉に、環境に極力負荷をかけないお米づくりや、耕作放棄地を生き物がいっぱい集まる田んぼへ再生創造したり、緑豊かな原風景としての田んぼに蘇らせる活動などは、ささやかな取り組みです。
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感謝と慈悲のこころで絆をつなぐ

満仲
素晴らしいことだと思います。「自分は、自然に生かされ守られている」その感謝の意識を持って、自らを省みることが大切ですが、現代社会ではそれが不足しているように思います。人間は自分の不幸や身の回りで起こっている事象を他人や社会のせいにしがちですが、常に他を批判的に捉えるのではなく、「なぜ」「どうして」を自分向け、初めて反省という新しい自分を生むきっかけになるのだと思います。
山本
人も社会も「善き道」を歩むには、「慈しみの心」をもって、進むことが大変大事だと感じています。かけがえのない「地球との絆」つまり自然と共生していくためにも、「慈悲心」という利己的な渇愛の対極にある人を助けてあげようと思うやさしい心根であったり、悲しんでいる人がいればその痛みをわがことのように思い感じる心を行動の原点に据えていきたいと思っています。

こころの原点「唯足知吉」
ただるをしってきちとなす

満仲
熊野は万物生命の根源である、自然や宇宙に対する畏敬を、山や森に宿る神仏への祈りというかたちで受け継いでいます。その大自然に触れたとき、森羅万象の無常の摂理と出会い、人が生まれながらにして内在する、いのちの慈悲と寛容の心が、自然という鏡に映って現れます。その意味でも精神文化を象徴する希有な文化遺産だといえます。大自然を鏡とし地球環境との共生を考えたとき、利己の心を抑え、利他を考えて行動することが求められますし、全体と部分を同時に理解する必要があると感じています。小倉山荘には、自然と共生する心の拠り所となる戒めがあると聞きますが。
山本
「唯足知吉」(ただ たるをしって きちとなす)と刻んだ独自の「知足」のつくばいを小倉山荘「竹生の郷」の庭の片隅にすえて、私たちの戒めにしています。この知足の精神を日々実践し守ることは、大変難しいことですが、私たちの目指す理想的な心のあり方としています。人は、昔からややもすれば欲が深く、人を妬み、モノを沢山欲しがり、次第に心が貧しくなり、その結果、不幸を背負うことになりがちです。モノが豊かになればなるほど、知足の心を持つことが難しくなると、昔からよく言われますが、人類が永続的に生かされる考え方の根源であると考えております。
これからも人や地球のためにどうあるべきか。「優しい心」「美しい心」をもって循環型社会を実現していくことができれば良いなと考えています。
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