読み物

をぐら歳時記

『歳時記の起こりと室礼』◆その四


「一陽来復」を願う心を大切にしたい

「冬至」とは、日本において一年中で昼間が最も短く、夜が最も長くなる日。そう聞くと、何だか寂しく感じられる方もおられるのではないでしょうか。しかし、冬至はめでたいことが再び到来するという「一陽来復」の日でもあります。
今回は、室礼研究家の山本三千子先生に、この風習に込められた想いについてご紹介していただきます。かんたんにできる室礼の例も掲載しておりますので、ぜひ一度、取り入れてみてくださいませ。


冬至は蘇りの日でもあり、
春の兆しの時

 太陽暦を用いる現代では、冬といえば十一月から翌年二月頃をイメージされる方も多いと思いますが、これらの時期に陰暦ベースの「二十四節気」を当てはめると、冬の気配が現れる「立冬」(十一月七日)、遠山の頂きに雪が見える「小雪」(十一月二十二日)、峰々が雪に覆われる「大雪」(十二月七日)、一年で最も昼が短く夜が長い「冬至」(十二月二十一日)、本格的に寒くなる「小寒」(一月五日)、寒さの絶頂ながらも微かに春が兆す「大寒」(一月二十日)、暦の上では春をむかえる「立春」(二月四日)、降るものが雪から雨に変わり、雪や氷も溶けはじめる「雨水」(二月十八日)に相当し、少しずつ春に向かっていきます。

 古来より冬至は「一陽来復」ともいわれています。これは中国の教典『易経』の「此に至り、七こうして一陽来復す、乃ち天運の自然なり」に由来する言葉です。陰と陽の相関関係から世の中の理を読み解く陰陽説では、「陰極まりて陽となす」と考えます。したがって、「日短きこと至る」という意味をもつ冬至は、陰の気が最も強まる時期にして、陽が徐々に兆しはじめる時期でもあるわけです。そこで中国では冬至を、次第に力が蘇る日とみなし、新年の始まりとも考えて、先祖の供養などを行っています。

 日本でも、良くない状況を好転させたいという思いから、「一陽来復」の御札を、冬至や大みそか、節分の深夜十二時に、その年の恵方に向けて貼ったりする習慣などが現在でも残っています。御札は、本来ならば「高いところ」に貼るものですが、マンションなどでは不可能な場合もあります。そういう際は、季節の盛り物の一部として、南瓜などと共に「おぼん」などにお祀りしてもよいでしょう。


柚子湯で身を清め、運気の回復を願う

 日本ならではの冬至の風習に「柚子湯」があります。爽やかな柚子の香り漂うお湯に身を浸せば、冬枯れの時期に鮮やかな黄色も眩しく、いやがうえにも心は浮き立ちます。『古事記』の非時香菓(※)の例を引くまでもなく、柑橘類には不老不死の効果があると考えられていました。しかし、忙しい現代生活の中では、つい冬至に柚子を買い忘れてしまうこともあるでしょう。そんな時は、手軽な「柚子の入浴剤」を使用しても構いません。大切なのは、冬至の習慣を楽しもうという心なのです。

※垂仁天皇の命を受けた田道間守が、不老不死を求めて朝鮮半島へ渡り、持ち帰ったとされる良薬の木。冬にも青々とした葉が茂り、永遠の生命の木の実と考えられたようで、一説では橘の実であったとされます。


陰が極まる冬至の日に食するもの

 冬至の日に南瓜をいただく「冬至唐茄子(南瓜の別名)」の風習は、十五世紀頃に南瓜が伝来して以降のものです。南瓜は、カンボジア辺りから持ち込まれたことから「カボチャ」と呼ばれたという語源説もあります。当時の人びとは、鮮やかな色を持つ穀類や、温暖な南方から伝来した野菜には、陽の力が詰まっていると考えました。南瓜の鮮やかなオレンジ色は、まさに太陽の象徴に他なりません。太陽の力が最も弱まる冬至の日にこれを食することで、心身ともに健やかになることを祈ったのでしょう。また地域によっては、食せば疫病に罹らないと、冬至の朝に食べる小豆粥のことを「冬至粥」と呼んでいます。これは厄よけのおまじないで、赤い色合いには邪気を祓う力があるとされています。

 科学的にも、抵抗力が落ちる寒さ厳しき折に、南瓜や小豆など栄養価の高い食品を摂ることは有効です。たとえお菓子や洋食という形であっても、これらの食材を食膳にのぼらせることは、伝統の継承にも繋がります。是非とも冬至の日には、季節感を楽しみつつ南瓜や小豆等の食材を召し上がっていただきたいものです。

■かんたんにできる 室礼アドバイス■
『運盛』を飾ってみませんか
 冬至の頃の室礼としては、めでたいものも尽くしの盛り物である『運盛』があげられます。冬至を境に再び力が蘇り、運気が上昇していくと考えられることから、この日に『運盛』という縁起担ぎが行われるようになったそうです。南瓜、隠元、金柑、蓮根、人参、銀杏、甘藍(きゃべつ)など、名前に「ん(うん)」のつく野菜を集めてこの年の無事に感謝し、来る年の「運」を願います。「ん」は一つ付くだけでも『運盛』になりますが、二つ付くことで、たくさん運がもらえると言われています。
 『運盛』は、単純に縁起かつぎという側面だけではなく、栄養のある食べ物を食して寒い冬を乗りきるための「生活の知恵」ともいえます。八百屋さんで手に入れやすいものばかりですので、今年はぜひ取り入れてみてはいかがでしょう。お供え物である『運盛』は、冬至が過ぎたら下げて、直会(神様と共に戴くこと)として戴きましょう。その後、お正月飾りの準備を始めてください。